神職さんに聞く!学問の神様、梅の名所~京都「北野天満宮」の歴史や見どころをじっくり解説

2024/03/15最終更新

神職さんに聞く!学問の神様、梅の名所~京都「北野天満宮」の歴史や見どころをじっくり解説

京都市上京区にある北野天満宮は、菅原道真公(菅公)を御祭神とする全国天満宮・天神社の総本社。親しみを込めて「北野の天神さん」、「北野さん」と呼ばれています。学問の神様として信仰されており、受験の時期には合格を祈願する人が多く訪れます。また、梅の名所でもあり、花の時期には約2万坪の境内で紅白の梅が咲き競います。

今回、北野天満宮の権禰宜・白江秀宜さんに、その歴史や見どころについて伺いました。桃山建築の粋を誇る本殿や多彩な御神徳のある摂末社、境内に点在する「天神さまの七不思議」など見逃せないスポットがいっぱい! 初めての方におすすめの参拝コースもご紹介します。

北野天満宮は全国約1万2000社の天満宮・天神社の総本社

北野天満宮は全国約1万2000社の天満宮・天神社の総本社

北野天満宮は菅原道真公を御祭神としてお祀りする、全国約1万2000社の天満宮・天神社の総本社です。平安時代の天暦元年(947年)に創建されました。

現在の御本殿は、慶長12年(1607年)に豊臣秀吉公の遺命をうけた豊臣秀頼公が造営。神社建築の主流である権現造の原型となった、桃山建築の代表的遺構で国宝とされています。境内には、御本殿を囲むように50の摂社と末社が建ち並び、その御神徳も多彩です。

さて、菅公はいかにして御祭神となったのでしょうか? 権禰宜の白江さんにじっくりと語っていただきました。次にご紹介します。

菅原道真公は怨霊だった!? 日本三大怨霊から学問の神様になるまでのお話

学者の家系に生まれた菅公は、幼少の頃から優れた才能を発揮していました。「5歳で和歌を、11歳で漢詩を詠んだと言われています」(白江さん、以下同)。日夜勉学に励み、長じて後は学者・政治家として頭角を現しました。

菅公は、醍醐天皇の時代に左大臣に次ぐ地位である右大臣になります。しかし、それを妬んだ左大臣・藤原時平の陰謀により、九州・大宰府へ左遷されてしまうのです。

大宰府では、粗末な官舎で不自由な暮らしを強いられました。「衣食住に事欠く菅公の様子を見かねた老婆が、梅の枝に粟餅を巻き付けて差し入れたそうです。これが、太宰府天満宮の門前町の名物『梅が枝餅』の由来です」そして、左遷からわずか2年後の延喜3年(903年)に、失意のまま薨去します。

その後、菅公を陥れた藤原時平を始め、左遷に関わった者が相次いで亡くなります。さらに、平安京は天変地異や疫病に襲われ、人々は「怨霊となった菅公の祟り」と恐れました。ちなみに、菅原道真、平将門、崇徳天皇は「日本三大怨霊」と言われ、いずれも平安時代の人物です。

醍醐天皇は祟りを恐れ、左遷の詔を破棄して菅公を右大臣の地位に戻し、さらに正二位を贈りました。しかし、その後も祟りは収まらず、御所の清涼殿が落雷で全焼。焼死者が出たことを目の当たりにし、醍醐天皇は間もなく崩御してしまいます。

ここで一つ豆知識。「菅公の所領であった桑原の地には、雷が落ちなかったそうです。雷を菅公の祟りと恐れた人々は、桑原、桑原と唱えて雷が落ちないよう祈りました。これが『くわばら、くわばら』というおまじないの語源と言われています」

さて、天慶5年(942年)平安京の巫女・多治比文子(たじひのあやこ)に、「右近の馬場(北野)に社殿を建て祭祀せよ」と菅公の御神託がありました。文子は貧しい身分だったため、ひとまず自宅に小さな祠を建てて祀りました。

天暦元年(947年)、近江の国の太郎丸にも同様の御神託が下り、驚いた太郎丸の父・神良種(みわのよしたね)は、北野にある朝日寺の僧侶・最鎮に相談。文子の家の庭にあった祠を北野に移して、菅公を祀る社を建てました。北野天満宮の創建です。

その後、藤原氏による大規模な御社殿の造営があり、永延元年(987年)には一條天皇より「北野天満大自在天神」の御神号を賜ります。

北野天満宮は、戦国時代には国を護る神として信仰を集めました。江戸時代になると、菅公が学問に優れていたことから、各地の寺子屋に御神影が掲げられました。学業成就や武芸上達などが祈願されるようになり、天神さまは「学問の神さま」「芸能の神さま」として人々に広く知れ渡るようになっていきます。

京都を代表する梅の名所になった理由とは?

本殿前の飛梅伝説伝承の御神木「飛梅」
本殿前の飛梅伝説伝承の御神木「飛梅」

平安京での菅公の住まいは、梅の木が植えられていたことから「紅梅殿」と呼ばれていました。大宰府に左遷の際、梅との別れをしのんで詠んだ歌「東風(こち)吹かば 匂ひおこせよ 梅の花 あるじなしとて 春を忘るな」はあまりにも有名です。さらに、紅梅殿の梅が京都から九州の大宰府まで飛んで行ったとされる「飛梅」の伝説も残っています。このことから、北野天満宮では梅が神紋となっています。

境内には、菅公由来の梅50種約1,500本が植えられており、梅開花の時期には紅白の梅が咲き競います。早咲きの梅は例年12月中旬頃から蕾がふくらみ始め、正月明けから開花。徐々に咲きつなぎ、3月末頃まで長く楽しむことができます。

開花時の梅苑「花の庭」
開花時の梅苑「花の庭」

2月上旬~3月下旬には、境内の梅苑「花の庭」が公開されます。とりどりに咲く梅の間を縫うように散策路が配され、ゆったりと花見を楽しめます。「梅苑を360度見渡せる展望台があり、お茶とお菓子で休憩できる茶屋も開かれます。毎週金・土・日曜日(時期により変更あり)にはライトアップも実施しますので、ぜひ観梅にお越しください」と白江さん。

初めて参拝する方におすすめのルート!広~い境内の見どころを権禰宜の白江さんに聞く

2万坪の境内には、見どころがいっぱい! 初めての参拝では、どう回ったらよいのか迷ってしまうかもしれません。そこで、白江さんに初心者向けのおすすめルートをお聞きしました。以下、ご紹介していきます。

一の鳥居

一の鳥居

参拝は、まずはここからスタート。今出川通りに面して建つ、高さ11.4メートルの大鳥居です。柱は直径13メートルもの巨岩(花崗岩)から切り出されたもので、継ぎ目のない一本柱なのだとか! 中央には、重さ563キログラムの立派な扁額が掲げられています。

影向松(ようごうのまつ)

影向松(ようごうのまつ)

一の鳥居をくぐると、すぐ右手にひときわ立派な松の木があります。影向(ようごう)とは、神仏がいっとき姿を現すこと。「立冬から立春前日までに初雪が降ると、天神さまが降臨して詩を詠むという伝説があり、初雪が降った日には硯と筆と墨をお供えして初雪祭が斎行されます」

撫牛

撫牛

表参道の左右には伏した牛(臥牛)の石像があり、撫でることで御利益を得られると信じられています。「頭が良くなるように牛の頭を撫でて、学業成就を願ったり、足が不調なら足を撫でて治癒を願ったり。民間信仰の一つの形ですね」手づくりのよだれかけが結ばれているのも、ほほ笑ましいですね。

なぜ牛の像なのか、なぜ立っておらず伏せているのか? それは、菅公が丑年生まれだったことと、大宰府で亡くなった際、遺骸を運ぶ途中で車を引く牛が座り込んで動かなくなり、近くの安楽寺に埋葬したという故事に由来しているそうです。

伴氏社(ともうじしゃ)

伴氏社(ともうじしゃ)

菅公の母君をお祀りする社で、学業成就の御神徳があるとされます。また、石造りの小さな鳥居は柱の台座が蓮弁の形をしており、京都三珍鳥居の一つに数えられています。

太閤井戸

太閤井戸

表参道の右手に「太閤井戸」があります。豊臣秀吉公が天正15年(1587年)に催した「北野大茶湯」で、茶の湯用の水をくんだと伝わる井戸です。駐車場の中にさりげなくあるので、見逃さないようにしてください。

楼門

楼門

三の鳥居の先に楼門があります。平安時代の学者、慶滋保胤(よししげのやすたね)と大江匡衡(おおえのまさひら)が、菅公を讃えた「文道大祖 風月本主」の文字が刻まれた扁額が掲げられています。「学問や文学の祖であり、和歌や漢詩に長じた文化芸術の神様である、という意味です。菅公のすべてが凝縮された言葉だと言えるでしょう」

絵馬所

絵馬所

大きな絵馬が奉納されている建物。元禄の大修理の際に建てられたとされ、その規模や歴史は現存する絵馬所の中でも随一。京都市指定有形文化財です。

摂社・末社

摂社・末社

三光門に続く参道の両脇には、雷除けの御神徳がある火之御子社(ひのみこしゃ)、林業の神とされる老松社(おいまつしゃ)、子授け・安産の神とされる白太夫社(しらだゆうしゃ)、開運招福の御神徳がある福部社(ふくべしゃ)があります。「白太夫社の御祭神は、菅公に数十年にわたってお仕えした度会(わたらい)春彦で、若い頃から髪が白かったため白太夫と呼ばれていたそうです」

中門(三光門)

中門(三光門)

三光門の三光とは、日・月・星のこと。「梁の間に彫刻があることがその名の由来ですが、星の彫刻だけが刻まれていないとも言われています。平安時代、帝が御所から当宮に向かってお祈りをされる際、三光門の真上に北極星が見られたためと伝わっています」。星とは、三光門の真上に輝く北極星のことなのでしょうか…。日・月は「日の出」「日の入り」「三日月」の美しい彫刻が見られますので、探してみましょう。

中門(三光門)

国宝・御本殿

豊臣秀吉公の遺命により豊臣秀頼公が慶長12年(1607年)に造営した、総面積約500坪の雄大な御本殿。八棟造または権現造と称される、神社建築の歴史を伝える貴重な遺構です。まずはお参りをしてから、絢爛豪華な桃山建築の粋をじっくり見学しましょう。また、御本殿の前には飛梅伝説伝承の御神木があります。ぜひこちらも忘れずに見ておきましょう。

摂社・末社

御本殿の裏手には、北野天満宮の創建以前からある地主社、多治比文子由来の文子天満宮を始めとする摂社・末社が数多くあります。また、御本殿の背面に位置する場所には「御后三柱(ごこうのみはしら)」という御神座があります。ここには、道真公の先祖の天穂日命、祖父・菅原清公卿、父・菅原是善卿の三柱の神様が祀られています。「昔はこの御后三柱も含めて礼拝するのが常でした。古の習いに従って、皆さまもお参りしてみてください」

牛社

牛社

境内の北西にある牛舎に祀られた撫で牛は最も古く、江戸時代にはすでに「一願成就のお牛さま」として親しまれていたそうです。朱塗りの鳥居には絵馬がぎっしりと掛けられ、信仰の篤さが伝わります。長年撫でられ続けた牛の頭や体は丸みを帯びてきています。牛舎の北側には注連縄で囲まれた大きな石、亀石があります。

なお、豊臣秀吉公が築いた「御土居(おどい)」の一部が境内の西側に残っています。春の青もみじや秋の紅葉の季節には「史跡御土居のもみじ苑」が公開されますので、時期が合えばぜひ訪ねてみてください。

さて、境内には「天神さまの七不思議」があります。その一つが「筋違いの御本殿」。通常、神社では参道の正面に御本殿がありますが、北野天満宮の楼門参道の正面には摂社の地主社が建っています。「もともとこの地には地主神社がありました。後から当宮が建てられたという歴史的な理由から、正面には地主社、正面を避けて本殿という形になったいきさつがあります」

楼門参道の正面に建つ「地主神社」
楼門参道の正面に建つ「地主神社」

すでにご紹介した「影向松」「星欠けの三光門」「裏の社(御后三柱)」を含め、全部で七つの不思議があります。ぜひ探してみてください。

七不思議の一つ、「大黒天の燈籠」 大黒様の口に小石をのせて落ちなければ、その小石を財布に入れて祈ればお金に困らないとか…。
七不思議の一つ、「大黒天の燈籠」 大黒様の口に小石をのせて落ちなければ、その小石を財布に入れて祈ればお金に困らないとか…。

合格祈願だけじゃない!北野天満宮の御利益とは

学問の神様として広く信仰される北野天満宮ですが、その他にも数々の御神徳があります。

例えば、農耕の神としての信仰。雨を降らす雷を古代の人は天神として崇めていました。10月には、京都の秋祭りの先陣を切って、農耕の神としての天神信仰を象徴する北野祭「ずいき祭」が行われます。

また、平安京の北西(乾)の守り神として創建されており、厄除けや災難除けの御利益もあるとされます。さらに、和歌・連歌の神、武芸の神、そして冤罪を晴らす神としての信仰なども!

北野天満宮とあわせて行きたい京都最古の花街「上七軒」や、京都を感じるおすすめのお店

京都最古のお茶屋街「上七軒」

北野天満宮の東門を出ると、そこは京都最古のお茶屋街「上七軒」。室町時代、北野天満宮の社殿が一部焼失し、再建の際に残った材木を使って七軒の茶屋を建てたのが始まりだそうです。1587年、豊臣秀吉公が北野大茶湯を催した際、名物のみたらし団子を気に入り、その褒美としてお茶屋としての営業許可を与えたとされています。これが、上七軒の五つ団子の紋章の由来でもあります。

電線が地中化され、すっきりと美しい街並みはそぞろ歩きも楽しいはず。京の会席料理や、おばんざいをいただけるお店などもあります。今回は「有職菓子御調進所 老松(おいまつ)」さんに立ち寄ってみました!

有職菓子御調進所 老松(おいまつ)

暖簾がかかり、京都らしい風情を感じさせる店構え。店内には華やかな生菓子、かわいらしい干菓子、羊羹に焼き菓子・・・見ているだけでも楽しく、あっという間に時間が経ってしまいます。

有職菓子御調進所 老松(おいまつ)さんの店内

季節を感じる生菓子をいくつか選び、お土産とさせていただきました。ちなみに、北野天満宮の「梅苑(春)」と「史跡 御土居のもみじ苑(秋)」の公開時期には、苑内の茶店で老松さんの茶菓をいただけるそうです。

老松さんの茶菓

上七軒以外にも、北野天満宮周辺には魅力的なお店がいっぱい。参拝とあわせて楽しむのがおすすめです。食事を取れる所もありますから、ひと休みしてはいかがでしょうか。

一の鳥居前、今出川通り沿いの「とようけ茶屋」は、よく入店待ちの列ができている人気のお店です。

とようけ茶屋

豆腐と湯葉を使ったバリエーション豊富なメニューで、どれにしようか迷ってしまいそう。名物の「生ゆば丼」で温まるもよし、ちょっとぜいたくに「京野菜と生湯葉膳」で京都らしさを味わうもよし。自宅でお店の味が再現できる「生湯葉丼の素」もあります!

とようけ茶屋名物の「生ゆば丼」 濃厚な生湯葉を甘辛い出汁で味付け。生姜と刻み三葉が食欲をそそります。
とようけ茶屋名物の「生ゆば丼」 濃厚な生湯葉を甘辛い出汁で味付け。生姜と刻み三葉が食欲をそそります。
有職菓子御調進所 老松(和菓子)
  • 住所
    京都市上京区社家長屋町675-2
  • 営業時間
    9:00~17:00
  • 定休日
    不定休
  • サイトURL
    https://oimatu.co.jp/
とようけ茶屋(豆腐・湯葉)
  • 住所
    京都市上京区今出川通御前西入紙屋川町822
  • 営業時間
    飲食11:00~14:30(ラストオーダー14:00)売店9:00~17:30
  • 定休日
    木曜日(25日は営業/月2回不定休)
  • サイトURL
    http://www.toyoukeya.co.jp/shiten.htm

北野天満宮へのアクセスは公式サイトをチェック!

北野天満宮
  • 住所
    京都市上京区馬喰町
  • 開門時間
    「本日の開門時間」を公式サイトにて確認できます
  • 参拝者専用駐車場
    あり(毎月25日は縁日のため駐車不可)
  • アクセス
    京福電車 北野白梅町駅より徒歩5分、電車とバスを乗り継いでのアクセスは複数あり、公式サイトにて詳細が確認できます(一例:JR京都駅より京都市バス50系統で約35分 北野天満宮前停留所下車)
  • サイトURL
    https://kitanotenmangu.or.jp/

関西人なら、一度は行ってみたい北野天満宮

「天神さん」として古くから親しまれている北野天満宮。毎月25日には「天神市」が行われ、早朝から露店が軒を連ねて多くの人が訪れます。天神市では日没から境内のライトアップが行われ、社殿が美しく幻想的な姿になるのも見どころ。1月25日は初天神、12月25日は終い天神と呼ばれ、ひときわにぎわいます。

東側には花街として有名な上七軒があり、門前にも美味しいお店がいっぱい。参拝の後にはぜひ訪ねてみたいものです。

関西は少し足を延ばすと、たくさんの魅力的な歴史・観光スポットに出会えます。これからもおすすめの場所をご紹介していく予定ですので、楽しみにしていてくださいね。

本記事は、一般的な情報提供を目的としたものです。
掲載にあたっては、慎重を期しておりますが、その正確性を保証するものではございません。

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